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そして旅団は北へ


久米島のハテノ浜を囲むリーフの南東沖合い1キロの洋上。晴れている。波もそれほどない。冬場としては申し分ない海だ。この時を待っていた。数回のブローのあと、2頭のザトウクジラがゆっくりと潜降してゆく。ブロー間隔は約5分。ゆっくりと進路を風上のリーフ側にとり、エンジンを切る。波音で満ちた。透明度はよくない。10メートルそこそこといったところだ。船ほどもある巨躯の彼らでも、眼前でないと見えない。先程潜降していった彼らとは、エンジンを切ってから数百メートルは離れているだろうか。しかしそれも数分前のことだ、実のところどの位離れてしまったのかなんて、もうわからない。
でも彼らは僕達とこの船をはっきりと認識しているだろう、確実に。

今、僕達は船のエンジンを切り、ただ風まかせで流れている。
もし出会いがあるとするなら、それはこの船の真下、加えて数メートル程度のところまで、彼らのほうから来てくれること、それしかないということになる。波にゆられながら彼らを待つ。波音が響いている。

来た。

この日、彼らは自ら数分おきに船の真下に訪れてくれた。時間にするとおそらく10分程だったろう。僕達はロープを握り、彼らを見つめる。

彼らはゆっくりと離れていった。

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今年はザトウクジラの旅立ちが遅く、本島地方近海にもまだまだ相当数が残っているようです。
ただ、ダイビングの行き帰りといったシチュエーションで久米島で彼らと会うのはさすがにもう1回、あるか、ないか、という状況になりました。ひとまずシーズン終了です。数々の出来事を思い起こしたり、来期へと思いを馳せているダイバーの方々もきっと多いでしょう。そういえば今年、ナンハナリ周辺でよく遊んでくれたあの親子は今頃どこに居るのだろう。あの子のブリーチングは2月にして既に玄人の域だった。

今、僕はもし水面に行くのであればおだやかな日に限り、エンジンを切り、フィンキックをすることなく皆でラダーかロープにつかまり、水面に漂い、待つ。という方法を優先的に選択します。エンジンなどの機械音や、フィンキックやエントリーで発生する音や水面付近の飛沫、移動することによる肉体にかかる負荷。このような要素は可能なら削いでいく。勿論この方向性で機会を大幅に減らす可能性は高いけれど、逆に安全性を高め、同時に参加者へのある種の公平性を保てると考えてるから。この方法を採った場合、十数メートルに達する巨大な彼等は今何処に居るのか、どの方角にいるのか、どのくらい離れているか、実際ほとんど見当がつきません。しかし彼らには先程から僕達が見えており、じっと観察されていることはわかる。確実に。クリック音と歌声だけが響くこのブルーウォーターの水面上を、何もせずにただ浮かび、ただただ待つ。おそらく、近くに居るであろう彼等の気配を感じながら、身体をふるわせながら、待つ。

そして彼らは来る。

意思をもって、目の前に、漆黒に沈む深みから。ブロウ音も聞こえぬ遥かから。自らが望んで、獣気を纏って、来る。
この方法を採ると、皆の感覚が鋭敏になり、気配や思念、たたずまい。太く、濃密に海が満ちる。全く違うのです。

クジラと水中で遭遇した人間は今、この地球上にどのくらいいるのだろう。多めにみても10万人くらいではないでしょうか。世界人口は60億ちょっと。つまり数万人にひとり、国立競技場超満員の中のたったひとり。久米島をはじめ沖縄の冬は、波が2.5メートルなら穏やかな方といっていいし、太陽が雲間から覗くことが週に1度あれば上々、といった日々が続くので、運が非常に良いとしてもチャンス自体がシーズンに数回、他の海域であってもプレミアチケットにかわりありません。出会い方を変え、工夫することで、機会を増やすことは出来るでしょう。彼等とのこのような関係はまだはじまったばかりで、今後も多くの判例を待たねばならぬこともあれば、変わることが必要なときもあるでしょう。様々な試みがされてよいし、されるべきです。しかしそうする事によって薄まらざるを得ないものを少なくとも僕は中心に求めているので、彼らとの関わりは、ビジネスとしても、撮影としてもぎりぎり成立しないであろうこのライン、この方向性を選択します。僕にとっての彼らに近づく、は現状、これです。

彼等は星のおおきな流れに乗って南北をめぐり、連鎖の頂点に立って調和を保つ旅団のような存在です。そして今年の春も北に向かいました。よい旅を。という言葉をかける資格は少なくとも今、私達日本人にはありません。


【4月15日追記】
文科省が4/12付けのプレスリリースで、福島原発沖合放射能濃度分布シュミレーションを発表しました。沖縄本島地方、および小笠原で繁殖期を過ごした彼らは被爆量の大小は別ですが、この海域の表層を通過しなくては北にはいけないと思われます。拙ブログ本文中の危惧についてはこの件にかかわることで、オホーツク・ベーリング海、アリューシャン列島、アラスカ、その他極地に対しての言及ではありません。ご覧頂くとわかりますが、ヨウ素131、セシウム137は4/15時点で既に黒潮に乗り、銚子沖650k沖合い付近まで達しています。さすがは文科省というべきか、シュミレーション値は、東電の公表値を元に、「保守的に仮定した」という非常に難解な新語でシュミレートされたものではありますが、現状これにかわる情報はありません。このプレスリリースに於いては、保守という言葉があるべき意味で使われたと思いたいです。

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Smile for Japan. -日本にスマイルを-そして旅団は北へ_a0060407_1272831.jpg
笑顔は自分や家族だけのものではない。
恐怖で身がすくまないように。
不安で進む道に迷わないように。
僕も心して笑おうと思います。
小さな笑顔が、再生の助力となりますことを。

【今日の元気玉】 -さわこ-
いつも乗り合いでお世話になっている高里マリンスポーツクラブに現れた90年代生まれの超新星、20歳。たとえ日に日に大きくなっていっても、宮里藍に微妙に似ていても、着ている服が大体いつも一緒でも、ゆとり世代には怒ってはイケナイのだ。でも久米島にガイドを目指して来る、これだけで既に大変に嬉しいじゃないか。いいガイドになろうぜ。負けられないな。
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Commented by shirai at 2011-04-13 21:14 x
旅団が見る北の海は昨秋と変わらないのかな?たぶん、そんなに変わってないんでしょうね。
Commented by colorcode at 2011-04-13 22:30 x
shiraiさん:そうだといいです。そして、それはものすごく幸運なことだと思います。う~ん…。何も食べずに北に行くだけかもしれないし、帰り道は実は小魚を食べるかもしれない。回遊ルートはいくつかあるはずですし、こんなとき北半球の個体群がGPSである程度フォローされていればと思うのですが。

違う種族ですが、人間と同様、連鎖の上にいる彼らです、影響も結果も、同様に後のほうになるでしょう。今考え、はじめるべきことがあり、そこから人間が学べることがあると思います。
Commented by sawako at 2011-04-14 20:40 x
あつおさん:)
写真載せてもらってありがとうございます!
ゆとり娘頑張ります!!(笑)
Commented by colorcode at 2011-04-14 21:13 x
sawakoさん:こちらこそ、協力ありがとうございました。僕達が出来る、久米の海を楽しんでもらうことに力を尽くしていきましょうね。
Commented by hama at 2011-04-18 06:04 x
旅に出たか~!オイラも旅に出てぇな~!
Commented by colorcode at 2011-04-18 21:25 x
hamaさん:あともう少しで旅ですねっ! それまでもう一息です!!
by color-code | 2011-04-13 12:18 | うみのいろはそらのいろ | Comments(6)

沖縄は久米島にある小さなダイビングサービスです。


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