エコロジスト
ある日、親子のダイバーがやってきた。子供は12歳の女の子で、なかなかわんぱくな子に父親は、笑いながらも手を焼き、水中では何処に行ってしまうか解らないので、その子のBCには何時も数メートルのロープが繋がれ、すぐ何処かあらぬ方に行こうとする我が子を手に持ったロープでヒョイっと手繰り寄せ、それはまるで、言う事を聞かない犬の散歩をしているかのようで、それが僕には、なんだかすごく微笑ましく、羨ましく思え、その親子の滞在中は殆ど一緒に潜っていました。 

その子は好奇心旺盛で、とにかく何処かに行こうとする。何でもとりあえず触ってみる。つついて大丈夫そうだと、遊んでみる。イモガイも持とうとする。父、慌ててロープ引っ張る...。こんな感じで潜っていた時、ちょっとした事件が起こったのでした。

この親子含め、数人の他のゲストと一緒に、ゴールドスペックジョーフィッシュを見ていました。彼女はまだ彼らを認識していないらしく、暫くキョトンとしていましたが、穴掘って、そこに住んでるんだよ。と教えた数秒後、いきなり彼らの巣穴を一心不乱に掘り始めたのです。何処からそんな力が出てるんだ?? という位、すごい速さで、素手で、深く、執拗に...。僕達は、あっけに取られ、ただ、見守るだけでした。数分も経ったでしょうか、彼女の周り、1坪ほどの砂地は、数個あった巣穴は見事に掘り返され、もうもうと砂煙が立っていました。彼女は悟ったようでした。もう見つからないと。彼女はじっと僕を見つめていました。

その夜、お酒を飲みながら、今日潜ったゲストと一緒に話をしている時、いつのまにか、話の話題は彼女の事になっていました。「あれはまずいよなぁ、10匹はいたぜ、あそこにさぁ。」から始まり、笑いを交えながら、彼女は、結局、最終的に「破壊王」という称号を、一緒に潜っていたグループから贈られたのです。

彼女は、日を経たずして、些細な好奇心から自分が今日取った行動が、数匹の生物に、直接手を下して死に追いやった事を知ったでしょう。それは飲み会会場の脇にポツンと座っていた彼ら親子の耳に、大爆笑で盛り上がっていた僕のテーブルの会話の中、今ここで伝わったかもしれません。でも僕は、彼女が今日したことは、彼女にとってすばらしい経験だと。この会場の中にいる人の中で、上手くいえませんが、彼女だけが何故か正常な人間に思えたのです。

僕のテーブルでは、未だ、笑い声と共に破壊王の話題が続いています。話し続ける数人のゲストの目の奥に、彼女に対する非難でも、嘲りでもなく、羨望が混じっている事にふと気付いた僕は、そっとグラスを置いて席を立つことに決めました。 勿論、彼女と話しに行くために。 僕は、まっとうなエコロジストとは、彼女のような人であると、今でも信じている。
[PR]
by color-code | 2002-06-01 20:56 | ねじれ頭がぷかぷかぶーん | Comments(0)
<< 何故、私達はロクハンカブリを着...