クジラにとり憑かれて⑤ - めくら撃ち -
2006年 03月 05日
初めてブリーチングを見た時は、こんなもん撮れるわけないと思った。ものすごく揺れ、滑り、雨と海水が降り注ぐという劣悪な船上という足場で、何処から何時飛んでくるかもわからない彼らを待つ。一度飛んできたら、最も高い場所に彼らが到達するまでは0.8秒くらい、フルブリーチで1秒か。その間に認識し、ファインダーを覗いてズーミングし、フレーミングし、ピントを合わせ、切る・・・・無理じゃん、そう思っていた・・・・・・これは大半の場合、今現在も無理なのである。故によく発表されているフルブリーチのすばらしい映像は、一度近くで飛び、数十秒後に、その場所あたりからもう一度、しかもフルで、頼むから飛んでくれないかなぁ、というはなはだ身勝手なリクエストを、海のように広い心で彼らが叶えてくれた数少ない出会いを撮影者が決して無駄にしなかったからに他ならない。だからブリーチングを撮り慣れない人がやると、大体2.3年は、巨体が水面に叩きつけられて飛び散るものものすごい水しぶきと、そのなかにわずかに覗き見えるお腹か胸ビレ、をひたすら撮る憂き目に遭う。この間、初動から1.8秒後くらい。
この日は天気がよく、クジラ撮影にはベストといっても良い海況だった。凪で足場も良い。しかしこんな日の彼らときたら、ブロウの時にまともにテールすら上げなかったり、全く以ってまったりとしてしまって絵にならない事が多い。数時間経って、そろそろ膠着状態か・な? と思っていた矢先にいきなり真横で彼が飛んできた、フルブリーチ!!
うぉぉぉー! 皆が驚きと、不平(何故っていきなり飛んだから・・・ホントわがまま)の混じった叫びを彼に向かって大声で返す、その時約1秒弱が経過・・・僕、カメラは首からぶら提げ、だらんと腰に落としている状態、右手をシャッターボタンに添えて彼を見た時に、既に彼は最高到達地点間近まで飛び上がっていた・・・ダメだ、間に合わない。
無意識に腰の位置のまま、レンズを向け、シャッターボタンを押す。レンズの中でフォーカスリングがスゥゥゥーっと回転していくのが左手を通して伝わってくる、そして意を決したかのように、シャッターが下りだす。この間、0.5秒程度か・・・ピントが来たときに、既に巨体は上昇を止め、緩やかに、しかし確実に速度を速めながら水面に向かって落ち始めていた。確認している時間は無い、そのまま腰にカメラのボディを当てて固定しながら、マシンガンを腰ダメにして撃つようにシャッターボタンを押しっぱなしにする。4枚目・・・・、三階まで届こうかというくらいの目の前の水飛沫を写しこんだところで、カメラの動きはようやく止まった。
で・・・・・・確認・・・ん? うおっ?? やたっ! ちょっと落ち始めてるけどフレーム入ってるじゃん、適当に押したのに。なんとまぁ、奇跡的、っていうか、結構僕、ファインダー見ないで撮る事多いんですね、水陸問わず・・・だからとっさにとは言え、いつかはやるであろう事でした。でもラッキーです、ノートリでここまでフレーミングされてんだから、お前、今後ファインダー見ない方がいいんじゃないの? と、他人事の様に自分に向かって言ってみる。
名づけて腰ダメめくら撃ちニコノス方式・・・来年、極めてやるぜっ。
虹がほしかったかな?