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黒い死の影

30度を超える水温が続き、台風は来ないまま。久米島でもサンゴの白化が始まりました。1998年以来の大規模な事態です。サンゴはギリギリまで持ちこたえているのですが、限界を超えると数日で激変します。先週から一気に海中の光景がパステル色になりました。私達人間も加担したことです。どれだけサンゴ達が急速に耐性を強化したとしても、この凄惨な白化現象は今後も近いうちに起こるでしょう。それが起きたときに目を逸らさず、見続けることがダイビングに携わる人が今、するべきことだと思います。


赤灯台という島の北側の外海と内湾の特徴がが入り混じったポイントがあります。サンゴ、スズメダイ類の種類が群を抜いて豊富で、毎年襲い来る台風の影響も外海にしては大幅に受けづらい場所で、ここ数年のサンゴの成長はそれはそれは見事なものでした。ただ今年の高海水温は、ここが潮や波の影響を受けづらいというメリットが逆にデメリットにもなり、この1か月は非常に過酷な状況になりました。8月に入って一気に白化が始まり、8/9の昼にはここまで進行しました。

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エントリーしてまず眼についたのがサザナミハギやナガニザの幼魚たち。かなりの量が降り注ぐ太陽の下、あっちこっちへと移動しています。異変に気付いたのはその直後。水深を10mまで落とすとポイントのあらゆる根すべてがニザダイ達の幼魚で覆われていたのです。数万はあろうかという、黒い雲のようでした。動画をこちらに貼っておきます。

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彼らはサンゴの根を覆い、各々が搾餌をしています。その行動をしばらく観察していてあることに気がつき、ゾッとしました。主に藻類を食べ、稀にデトリタス(生物や微生物の死骸等)を食べている彼らがなんと、白化したサンゴ自体をついばんでいたのです。健康なサンゴであれば抵抗力もあり、住処としているスズメダイや甲殻類などが宿主であるサンゴを防衛しようとしますから、これは普通ではありません。高海水温に長期間さらされたサンゴは褐虫藻を放出します。そして重要なパートナーを失ったサンゴ虫自体もやがて死に、白化した骨格だけが残り、抵抗源を失った骨格はやがて藻類に覆われ、瓦礫となります。彼らはその断末魔をあげているサンゴ達に最後の一撃を加え、息絶えた死骸を食べていたのです。
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この時を待っていたといわんばかりに次々と、絶え間なく襲い掛かる彼ら。黒い雲が死の影のように見えてきて…。豊富だったサンゴを宿主とするスズメダイ達は嘘のように激減していました。もう住処としての機能を持たないと判断したのでしょう、それにしても彼らはどこに移動したのか、安住の地は見つかったのでしょうか。とても、とても重い1本になりました。

ニザダイの仲間たちにとっては繁栄のまたとないチャンスなので、これから爆発的に増え、数日のうちに主要なダイビングポイントに大挙して押し寄せ、瀕死のサンゴ達に襲い掛かるのは自然の必然。なすすべはなく、非難する権利も自分たちにはありません。これから息絶えた彼らが礫となる数か月後まで、しっかりと見続けようと思います。


1998年と共に、この2016年を忘れないように、記録しておきます。

-追記-
白化したサンゴは既にポリプが消滅しているという前提で考えると、ニザダイ達はその後に着床した珪藻を食べている可能性が最も高いと思われます、研究者の方々にも伺いましたが、やはりわからないことだらけです。なのでこの記事が正確な記述であるかどうかについてはまだなんとも言えません、まだまだ時間と検証が必要です。ただ観察していてまだポリプが生きている茶色の部分と白の部分の境界線の箇所をついばんでいるニザダイもおり、南方のニザダイたちの多くががシガテラ毒をもつことなど食性にまだ未知の部分もあり、さまざまな可能性を考えていってもよいと思います。




by color-code | 2016-08-28 11:46 | ナンハナリ大群集・サンゴの話 | Comments(0)

沖縄は久米島にある小さなダイビングサービスです。


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