イタイいきもの

たとえばトレッキングツアーなるものに参加したと仮定をしてみる。標高1000m付近から森林をめぐり、ガイドから植物相から生態系について時折解説を聞きつつ、日中の一日を楽しむのだ。その時僕は、ガイドの解説の何に、いったいどの様な言葉や物腰に、興味深く反応するのだろうかと考えてみる。まず容姿が良いことは言うまでもなく喜ばしい。広範な知識と技術。ウィットに富んだ巧みな話術がそのガイドの価値をより高めるだろう。そして表には出ないが強靭な体力。挙げればきりが無い。いろいろな問いが頭をめぐっているが、とどのつまり、これは自分自身に向けられた、ガイドと名の付く人間に求められる資質の根底の部分に対する問いそのもの。

その時僕は、そのツアーガイドに何を求めるだろうか。木々の名前のひとつくらいは、その巨大さや、紅葉の色の綺麗さなどと共に、数年のあいだ記憶に留まり続けるだろう。しかし数十の名前は、ものの数分で頭から消え去る。では、この白樺の樹皮は、ぶっちゃけなぜ白いのか、なぜ故白くあらねばならぬのかについて、学術的に広く認められた事実でなくとも僕は良い、たとえ力技で話の中に妖精すら登場してでも、ほんの数分、皆に語りかけてくれたガイドが居たならどうだろうか。その鮮烈な白のイメージと共に、そのツアーの記憶は頭からきっと去ることはないだろう。さて、わが身を省みて、ダイビングにおけるブリーフィング、ガイディング、ロギング。ガイド業は、俗世を捨てた刀鍛冶ではない。人間離れした技術があろうが知識があろうが、どちらが欠けてもバランスが悪い、容姿も全身タトゥーや落ち武者風では論外だし、どうあろうが話がヘタではその技術や知識のかなりの部分は、残念ながらドブに捨てたも同然である。背中を見、言外を悟ることが品の高低だった時代はもはや現代史からすらはずれた。さて、ダイビングサービスに求められるガイドの資質のあまりの高さに、おもわず天を仰ぐばかりだ。はっきり言う。無いぞそんなの・・・

絵が上手いガイドはとっても素晴らしいとおもう。僕にほんの少しの絵心と、可能ならば足のみ、あと5cmの身長と、伊豆あたりに別荘を持つ両親とピアノを弾ける大きな手があったなら、もっと人生は華やかで楽しいものであるはずだが、僕のDNAはそのような事態からかなり離れているし、ロギングに至っては、魚の話をしているうちにどんどん違う方向に話しが行ってしまう。いろんな近しい人から言われるが、僕は話を脱線させることに関してだけは上手いのかもしれない。少しヘコむがそんな時、僕は同じくそんな恵まれない(これは推測)人たちと一緒に、たまにログブックに絵を書いて遊んだりしている。今回は、2年にわたって開催された、「ナポレオン選手権」の、ちょっと信じがたいログを、恥を忍んでお見せしようと思う。いや、これはもやは、ログではないのかもしれない。趣旨は簡単で、皆さんもよくやっていると思うが居合わせた自称画伯、が数名、絵の上手さを競うだけである。シマヒメヤマノカミを一目瞭然に書けと言われても困るが、ナポレオンで困る人はそうそう居ない、という主催者(僕)の心優しい配慮で題材は決定。第1回は昨年2004年の夏に、これまた驚いた事にガイドを交えて開催された。エントリーは4名、そして仕上がりはいかに・・・?

【2004年第1回ナポレオン選手権 -エントリー男性3名・画伯1名-】

【27歳男性】
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魚というよりは、こういうオジサンが確実に実在しそうに見える。いや、積極的に居ると断言したい。そのせいか一瞬親近感が沸き、本当は上手いと錯覚させる絵である。お人よしの人物なら、味のある絵と表現するか・・・遠慮は要らない、ヘタと言ってしまおう。


【25歳男性】上
【33歳男性】下
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この2点はまぁよし、といえなくも無い。これをナポレオンとわからない人はダイバーで多分居まい、多分。まっ、及第点といったところではあるが、点数で言えば、店を出て数秒で味を忘れる評価点50点のラーメン屋と同じく、どうにもパンチに欠ける。この二人はこの企画の趣旨を履き違えていたようだ。こう暗牌ばかり捨てていては、数万年かかっても選手権には勝てないですぜ。


【画伯Y嬢33歳】
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・・・・ひどい・・・乳幼児がよくこんな生物を書いていた。数年前も、確かにうちの社長の子供が、こんな生物の群れを書いていた記憶があるので間違いない。筆のタッチが絶妙に良くて、大人には真似が出来ない絵である。実はこの絵を描いている間、終始この画伯の袂には、ナポレオンが大写しされた図鑑があったはずなのだが、いったいその何を真似たのだろうか?


記念すべき第一回は、まずは順当に、画伯の勝ちであった。頭のネジが外れたダイバーが、経験本数に関わらず実は意外に多い事に、一同素直に感動しつつ、選手権は閉幕する。ここでひとつ発見。これだけひどい絵を描いている全員が、自分の絵の技量を誰一人として疑わず、自分が一番上手いと声高らかに主張するのだ。まさに五十歩をもって百歩を嗤うそのものであるが、そんな事は、選手権中は皆、酒も入っているせいか誰も気がつかない。そして一年後の今夏、君臨する画伯へ挑戦する有望なチャレンジャーが数名現れたのを僕が見逃すはずは無く、数段レベルアップされた第2回選手権は開催された。正直見るに耐えない・・・・・。



【2005年第2回ナポレオン選手権 -エントリー男性2名・女性2名・画伯1名-】

【30歳女性】
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・・・!? いきなり超新星の登場であった。ヤバイ・・・この人・・・。彼氏が知ったら別れるのではないだろうかとすら思う個性的な筆運びである。 初登場にして既に魚類離れしたこの作風に、ダークホースの雰囲気をビシバシ感じ、久々の逸材登場に、一同驚きの声を隠せない。しかも尚、彼女は勝ち誇ってこう何度も主張したのであった。「私はヒレのところに線を入れたの、これが魚の印で、ナポレオンって事なのぉー!!」・・・あのぉー、その線とか、多分棘のことですね・・・? そのこだわりの前に、輪郭の問題だと思うんですけど・・・もしかして、小型哺乳類描いた?? 彼女は現在タンク本数200本を迎えた。合掌・・・

【41歳男性】
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おぉぉぉー・・・一同から、95%ねたみが入ったブーイングが鳴り響くが、その数秒前にカンニングをしていた事実が判明。再び一同、鬼の首を獲った様にこの男性を責める。ナポレオンのようなイージーな題材で、図鑑を見るとはいったい何事であろうか? この時点で彼の敗北がほぼ決定。

【30歳女性】
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一同しばし無言・・・。実は彼女は無敵画伯の友達・・・やっぱ、ネジ飛んでると思います、申し訳ないですが。これを素で見せられて、ナポレオンと答えたら、その人の頭もかなりゆるゆるなはず。でも彼女は、「えぇぇー!? 似てるぅぅー、これぇぇー!」って・・・、絶対似てねぇー。敢えて言うなら・・・イルカ・・・? 俺も頭ダメかも・・・・

【34歳男性】
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うぅぅーん、微妙・・・。こういう厄除けの置物は居ても確かに不思議ではないが、水の中のものかどうか・・・試しに頭の中で塗り絵をしてみる・・・間違って肌色に塗ってしまう・・・ウウォー、グロい・・・

【無敵画伯Y嬢】
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・・・!!!!!
これは魚類という枠を、もはや大幅に外れてはいまいか・・・僕には鳥に見えるが、見た瞬間一同爆笑してしまい、うひひひひ・・・・鳥っていうか、いねぇーよ、こんな生き物。ねーねー、画伯、一応ナポレオン選手権なんだけど。だめ、無敵、完敗ですよ(笑)・・・

更にパワーアップ(退化)して終了した第2回選手権であったが、相変わらず参加者全員、自分の絵が一番と信じて疑わないところだけは変らなかった。人をけなすのだけは進化している。バァーカ、バァーカの連呼である。あ、それ退化です・・・。


さて、非常に後味の悪いものをお見せしてしまったので、少し和んでいただこうと思う。お見せするのは畏友であり、潜り仲間である、通称(?)中年お絵かきダイバーこと、堀井画伯のログである。僕は氏のログの熱心なコレクター。

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初めて見たときは衝撃だった。これだけの、手の平に収まるほどの狭いログに描き出される海洋世界は、まさに夢の国の出来事であり、そこに居合わせた全てのダイバーが幸せであったと確信させてしまう力に満ちていた。この一千枚を超える作品を見れば誰でも、心は世界中を心地よい風と共にめぐることが出来る。そしてなにより実際、氏と一緒に潜る海は、毎回ファンタスティックだ。僕は彼と潜る年間のうちの数本が、いつもとても待ち遠しい。


ログにサインを求められたら、それを認証する義務が担当ガイドにはある。そしてそこから先は、無限だ。なにも魚の名前を読み上げるロギングタイムでなくとも良いではないか、良いではないかと悪代官のように囁きながら今日も魚の名前の殆ど無いログにサインし続ける。これは僕のガイドの質の低さの証明であるし、もっと猛省すべきだ。でも今、心の中で何かが違う、少しだけ違うと叫ぶ声が聞こえるし、なにより僕はこんな素晴らしい人達と毎年潜れて幸せですよ。堀井画伯、今年も秋宜しくお願いします。無敵画伯Y嬢、来年こそは・・・勝つ!! ・・・ってオイ、勝つのかよ、ガイドなのに・・・。
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by color-code | 2005-09-25 08:41 | Comments(0)

沖縄は久米島にある小さなダイビングサービスです。


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