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何故、僕達は大荒れのトンバラに行くのか?

ふと思い立って、冬場の久米のダイビングの主な舞台である、島の南側の事を書こうと思います。そこでやはりはずせないのが、トンバラ。夏にはイソマグロを筆頭に回遊魚が渦巻き、冬はハンマーとクジラという、寒さを一気に吹き飛ばす超大物が闊歩する。そして、マクロに関して言えば、久米に居る、およそほとんどのものがここには居るという、あまり知られていない意外な事実。やはりここを語らずして冬の久米は語れないし、最も重要なのは、このポイントを潜るには、何をするにもゲストの協力が、ダイビングの成功の可否を握っていると言うことを、冬のトップシーズンに入る前に、数人のゲストにでもいいので、知っておいて欲しいと思い、書く次第です。そう、ここトンバラには、ダイビングのあらゆるスタイルと基本、そしてそれを徹底してやり続けた人間に対する海からの偉大な回答が待っているのです。 

まず、このポイントに潜る時に、一番困ったことがある。それは一言で言うと、「頑張った人しか報われない」というシビアな現実。これは、正直ビッグスポットとして名を馳せているトンバラのイメージを、解釈によっては損ないかねない発言なので、声を大にして言う気は無いのだけれども、僕は数年間久米に住み、数百本トンバラに潜り続け、未だに「タナボタ的大物との遭遇」等という事を経験したり、「根待ちしていたら、何かすごいものが次々と通り過ぎ・・・。」といった事など、ただの1度も無いと断言できる。そんなことは潜る前に考えたことすら無い。では、どうするかと言うと、ただひたすら潮を読み、魚のたまりを計算し、ゲストの位置、他のガイドのコース取り、ダイバーの泡、そんな諸々を利用しながら動き回るしかないのです。だから船酔いで申し訳ないと思いながらもスキンチェックをしないわけにはいかないし、泳ぎ回らずにはいられない。潮は分刻みで方向と強さを変えていき、大潮・小潮・干満などお構いなし、全く予想がつかない中で、自分が出来ることをするしかなく、そして魚達は愛想良く寄って来てなど、決してくれない。これからの時期ハンマーを狙うなら、決してフリー潜降等して無駄な体力を使わず、地を這いつくばって岩を掴み、出たら今まで節約してきた体力を一気に使い切る。そして帰り道は長くしんどい。ただ、そうやって知力、体力を振り絞って眼にした時のハンマーの群れ、そしてザトウクジラの印象は鮮烈です。これは屁理屈を言っているのでなく、本当のことです。これは,寒いさなか、冬場に必ず訪れてくれる常連のゲストには、きっと解ってもらえる感覚に違いないと信じています。 

何故、僕達は大荒れのトンバラに行くのか?    _a0060407_21553811.jpg今からの季節、初めて久米に訪れようと計画し、ハンマーやクジラに逢いたいと強く願っているゲストの皆様、どうかお願いがあります。僕は、おそらく他のスタッフも、自分の力を全て注ぎ込むつもりで毎日緊張し、半分恐怖しながらトンバラに向かいます。どうか潜降は、水面を流れるラインとアンカーロープを使って下さい。そして指1本でをかけるだけでももいい、岩を使って体力を節約してください。岩を使いながらも、常に視線はレーダーのように360度を確認しつづけましょう。そして私たちガイドが泳ぎ回ることを許して下さい。そういった手のかかるダイビングスタイルをしなければ成立しないポイントというのは、もう世界中でもそうは無いはずです。これをポイントとして良いか、悪いかで判断することは僕には出来ません。事実、未だに僕はこのポイントに行くときには半分緊張し、半分言いようのない期待で満ちた、複雑な心境で赴くのです。根待ちをしていれば、次々と群れが通り過ぎ、ドリフトして潮に乗っていれば、向こうから何かが突然現れる。そういったポイントでは無いのです。しんどいと思うかもしれません。ただ、ダイバーが海に挑む、攻める、そして軽くあしらわれ、無視され、思い出したように凄い物をくれる。そういった緊張が伴うダイビングの快楽を、これほど色濃く残しているポイントもまた無いでしょう。そしてこれは私たちダイバーが海に向き合う時の本質の大きな部分だと思います。そしてこの恩恵を受けるのは、必ずしもベテランダイバーでは無いということも数年間潜って気がついた発見でした。そしてこうまでして尽くして頑張っても、時に外れる・・・。これもまた、ガイド陣を恐怖させる大きな原因なのですが、僕はこれもまたトンバラの魅力だと思っています。いかにも海のあらゆる面を内包するポイントなのです。まさしく水族館と対極に位置する快楽を頑固に提供し続けるこのポイントを、僕は深く尊敬せざるを得ません。 

これを読んで、経験浅いし、ハードそうだし、ベテラン向きのポイントそうだし・・・。と思った方、トンバラに潜り、もし、このダイビングスタイルが気に入っていただけたなら、ロープ潜降、岩を利用した潮流への対処、潮の読み、魚のたまり、そんなことを、ほんの少し頭の片隅に置いて、どうか、数本、数十本と潜ってみてください。そしてその驚くべき成果は、その後、おそらく他の島の大物スポットで再認識するはずです。何故なら、あなたはその時、並み居る強豪数百本ダイバー達を、軽々とブチ抜き、強い潮をものともせず、数十万の撮影器材を抱えたダイバーを遥か後方に抜き去り、先頭でその生き物との至福の遭遇を果たしているに違いないのです。これもまた、本当のことです。
by color-code | 2002-11-16 20:48 | うみのいろはそらのいろ | Comments(0)

沖縄は久米島にある小さなダイビングサービスです。


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