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おかず


シルバーウィーク最終日、ゲストと二人で浜に出た。

お休みの最終日とはいえ、まだまだ島のいくつかの港はダイバーで溢れてはいたのだけれど、こちらは午後になってみればいつも通り、そのゲストの方とふたり。
そろそろ人ごみ(といってもチャーターしたボートにも数人しか乗ってはいなかったのだが)に疲れ始めていたのかもしれない僕とそのゲストは午後のボート日程が決まるや否やどちらともなく顔を見合わせ、閑散を悲しむことは当然なく、むしろやったやったぁ~くらいの勢いで急いでボートから器材を下ろし、屋台でそばをサクっと平らげて浜へと直行したのだった。昼下がりの気持ちよい海曜日。

が・・・そうは問屋がおろすまい。世間は連休最終日の釣り人で賑わっており、どこのポイントも糸が垂れている事に、この期に及んでようやく気づく。まったくそんな事は船を下りる前に当然気づいておくのがガイドの仕事というものだが、僕にはそれが幾分足りないようだ。反省。。。

でもここで意気消沈していても始まらない、この際だから遠いところまで足を運んでしまおうと、車で30分ほどかけて山をいくつか超え、急坂を下って磯に出る。ところが今度は釣人ではなく、Tシャツ&短パンに漁サン履き、その格好にマスクを付けて網を担いだ数人の島人が今まさに網を持って入水しようとしているではないか。

思わず心の中で、あっちゃぁぁ・・・とつぶやく。釣人ならまだ丁重にお願いして、近寄らず、激しく動かず、むしろあなたが立っているそこの膝より更に浅いこっちのほうで遊ぶから、もちろん何か捕らんしちょこっと撮影を・・・などといつものように交渉もできるが、この島人達のいでたちを見る限りどうあがいても全域自分たちのダイビング海域とかぶってしまうのだ。

これはさすがにお手上げ、二人で車を降りて暫くどうしたもんかと眺めていたら、そのうちの数人とばっちり眼が合い、すぐ終わる、すぐ終わる、を僕にむかって繰りかえす。いやいや決して邪魔なんぞする気はなく、ましてやその隣から入ろうなんぞまったく・・・と言い掛けたところ、おかずを皆で獲りにきた、すぐ終わるから、と改めて直ぐ、をその人は強調する。そんな短い単語だけのやり取りを二三しながらここにきて自分に頭の中には潜るのとは別の欲望がムクムクっともたげてきていたのである。既に数人のうちの2人は海に入って外海に出る水路の細く括れた所に網を設置しに向かっていた。そしてTシャツ&短パン(良くてもロンT)にマスクだけ、いや、マスクすらしていない漁サンのおっさん達・・・つまり今からするのはこの水際からの追込み漁。

あの~、今からですよね? 僕、追込みしてるとこ見たことないし、滅多に見れないので一緒に入ってもいいですか? はい、邪魔とかしません、もちろん手伝います。と言ってみたところ、皆即答で快諾、かくして5人の島人のおっさんと2人のおっさんダイバーの追込み漁が始まった。えへらえへらしながら二人共、両腕にはしっかりと自分のカメラを握り締めていたのは言うまでもない。

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追込み漁は簡単に言えば、張った網に向かって魚を追込めばよし、という言葉にしてしまうと至極単純な漁で今回の場合、自分たちは沖合いの外海に続く水路に向かって岸からバッシャバッシャと、とにかく手足を可能な限りバタつかせながら、届いているかは解らないけれどもウォォとかオウオウとかウキャキャとかウガァァ~とか叫びながら30m先の網まで泳ごうが立とうが潜ろうが歩こうが、とにかく行けばよいという、小学校低学年でも余裕でこなせる役回りなので何の不安もない。これで失敗したら原因は網の張り位置くらいなものだから、手伝う自分達も気が楽なものだ。それに加えて漁をしているという緊迫感のようなものはそこいら一帯にはちっともなく、水に入ったオトナ達はとにかくおかずが楽しみでしょうがない! といった風情なのである。 
水中を歩きながら実は心の片隅で、フィリピンのド田舎の仕事が無いけど酒は昼間から飲みたいし、でも家に居たら母ちゃんにどやされるからとにかく小さな手漕ぎボートでもいいから海に逃げて、とりあえず釣り糸でも垂れて、その隙に呑んじまおう的なダメンズ集団がたまに竹ざおでやってる追込みのほうがまだ気合入ってるんだけど大丈夫か? という疑念も浮かんではいたのだが自分も半笑いでグハァァ~とかいいながらバシャバシャやりつつしているともう、そんなことはどうでも良くなる。しかし水面下では僕の右手は断続的にシャッターを押しているのだった。ちなみに僕は広角レンズをノーファインダーで腰位置で、あくまで適当に、撮る。この無責任な方法を僕は常日頃好んで使っている。電車内か更衣室でやるか、いきなりストロボ焚かない限りはこの島人も許してくれるだろう、という完全に希望的観測で・・・人はかくも欲深いのである。

そうこうしているうちにあっというま、おそらく90秒もかかっていないのではないか、人々は次々に網へとたどり着き、逃げ遅れたいくばくかの魚と一緒に網を岩からはずし、これまた自分たちの収穫を確認する前に、撮れたかっ? 撮れたか!? と口々に聞いてくる。

僕たちはもちろん、満面の笑みで応えた。

おかず_a0060407_17153561.jpg


それから約2時間後。思わぬ収穫に加えてまったりと満足の撮影ダイビングを追え、最近傾くのがめっきり早くなった西日を浴びながら急坂をのぼり、ふと石垣と花々に囲まれた民家の庭に眼をやると・・・

そこには酒を片手に僕たちに手を振る、夕焼け前から宴会真っ最中の、先ほどの5人の島人の満面の笑みがのぞいていた。 僕たちも精一杯の笑みと一緒に手を振って、帰路についた。帰りの車中に言葉はいらない。

こういう休みは最高だ。
Commented by 良速 at 2009-09-27 19:30 x
まるで 『Coralway』 を読んでいるかのやうだな。 笑
平成の垂見健吾と椎名誠に乾杯。 笑々
Commented by color-code at 2009-09-28 09:31
良速さん:この日の午後は、2人ともダイビングって感じだったのかなぁ・・・とにかくなるようになるさ的な気分でした。いい出会いでしたよ~
Commented by hama at 2009-09-30 01:10 x
あはは・・・いいね~!島の雰囲気が伝わるわ!!
島人なんて、魚見てねえんじゃねえかってくらいバタバタして・・・・笑。
でもアレくらいが、量的にも魚にも、いいのかもね?たのしかったさぁ~!!
Commented by colorcode at 2009-10-02 07:27 x
hamaさん:僕もあの漁で取れた魚の量を見て(笑)、自然のバランスって、こうとられてゆくんだなぁと妙に納得してしまったことを強く覚えています。 楽しく、無理はせず・・・・。
Commented by 養豚業者 at 2009-10-04 19:05 x
海でも山でも関係なく、猟って自分もしくは自分たちが汗をかいた分+アルファが手にはいるくらいでちょうどいいんじゃない。。。っと思います。でもいいなあ、俺もゆきたい。あ、撮るのもいいけど、獲るほうで。
Commented by colorcode at 2009-10-06 11:34 x
養豚業者さん:僕も一緒に山で今度猟、のほうを是非(笑)。プラスα、のことは深いですね、ECOっていうのは綺麗ごとじゃなくてそういうことですよ。
by color-code | 2009-09-27 17:15 | うみのいろはそらのいろ | Comments(6)

沖縄は久米島にある小さなダイビングサービスです。


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